はじめに:どのボードを選べばいいの?
電子工作や組み込み開発を始めたいと思ったとき、最初に直面するのが「どのボードを選べばいいの?」という悩みです。Arduino、Raspberry Pi、ESP32 – どれも人気で、それぞれに特徴があります。
この記事では、3つの代表的なボードを徹底的に比較し、あなたのプロジェクトや目的に最適な選択ができるよう、分かりやすく解説します。実際の使用例や価格情報も含めて、初心者でも迷わない選び方をお教えします!
3つのボードって何が違うの?
まず、それぞれのボードが何なのかを簡単に理解しましょう。
Arduino(アルドゥイーノ)
一言で言うと: 電子工作の入門に最適なマイコンボード
Arduinoは「マイコンボード」と呼ばれるもので、センサーやLEDなどの電子部品を制御するのが得意です。プログラムを1つだけ実行し、電源を入れるとすぐに動き始めます。
こんな人におすすめ:
- 電子工作を始めたい
- LEDを光らせたり、センサーを使いたい
- シンプルな制御をしたい
Raspberry Pi(ラズベリーパイ)
一言で言うと: 手のひらサイズの小さなコンピューター
Raspberry Piは「シングルボードコンピューター」で、LinuxというOSが動きます。複数のプログラムを同時に実行でき、インターネットに接続したり、カメラで撮影したりできます。
こんな人におすすめ:
- プログラミングを学びたい
- IoTプロジェクトを作りたい
- カメラやディスプレイを使いたい
ESP32(イーエスピーサンニー)
一言で言うと: Wi-Fi・Bluetooth内蔵の高性能マイコン
ESP32は、Wi-FiとBluetoothが最初から内蔵されているマイコンです。Arduinoのように使えて、無線通信も簡単にできます。
こんな人におすすめ:
- 無線通信を使いたい
- スマホと連携したい
- コストを抑えたい
詳細比較表
項目 | Arduino Uno | Raspberry Pi 4 | ESP32 |
---|---|---|---|
価格 | 約3,000円 | 約8,000円 | 約1,000円 |
CPU | 16MHz | 1.5GHz × 4コア | 240MHz × 2コア |
メモリ | 2KB RAM | 4GB RAM | 520KB RAM |
ストレージ | 32KB Flash | microSD | 4MB Flash |
Wi-Fi | ❌ | ✅ | ✅ |
Bluetooth | ❌ | ✅ | ✅ |
消費電力 | 約50mA | 約600mA | 約160mA |
電源 | USB/外部 | USB-C | USB/電池 |
OS | なし | Linux | なし |
学習しやすさ | ⭐⭐⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐⭐ |
それぞれの特徴を詳しく見てみよう
Arduino Uno:電子工作の王道
良いところ
🟢 とにかく簡単
// LEDを点滅させるプログラム(たった6行!)
void setup() {
pinMode(13, OUTPUT); // 13番ピンを出力に設定
}
void loop() {
digitalWrite(13, HIGH); // LEDオン
delay(1000); // 1秒待つ
digitalWrite(13, LOW); // LEDオフ
delay(1000); // 1秒待つ
}
🟢 豊富な情報とコミュニティ
- 世界中で使われているので、困ったときの情報が豊富
- 書籍、YouTube、ブログなど学習リソースが充実
- 質問サイトでも回答がもらいやすい
🟢 電子部品との相性が抜群
- センサー、モーター、ディスプレイなど、ほとんどの部品に対応
- ブレッドボードでの配線が簡単
- 電子工作キットが豊富
注意点
🟡 機能が限定的
- Wi-Fiやカメラは別途必要
- 複雑な計算は苦手
- 同時に複数のことはできない
こんなプロジェクトにピッタリ
- 温度センサーで室温測定
- 温度センサーの値を読んで、LCDに表示
- 設定温度を超えたらブザーで警告
- 自動水やりシステム
- 土壌湿度センサーで乾燥を検知
- 水ポンプを自動で動かして水やり
- LEDイルミネーション
- たくさんのLEDを美しくコントロール
- 音楽に合わせて光らせる
Raspberry Pi 4:小さなコンピューター
良いところ
🟢 本格的なコンピューター
# カメラで写真を撮ってメール送信(Python)
import smtplib
from picamera import PiCamera
from email.mime.multipart import MIMEMultipart
from email.mime.image import MIMEImage
# 写真撮影
camera = PiCamera()
camera.capture('photo.jpg')
# メール送信
msg = MIMEMultipart()
msg['Subject'] = '監視カメラからの写真'
with open('photo.jpg', 'rb') as f:
img = MIMEImage(f.read())
msg.attach(img)
server = smtplib.SMTP('smtp.gmail.com', 587)
server.send_message(msg)
🟢 多彩な機能
- ディスプレイに接続して普通のPCとして使用可能
- インターネット、動画再生、プログラミング学習
- USB機器(キーボード、マウス、Webカメラ)が使える
🟢 強力な性能
- 4K動画の再生も可能
- 機械学習やAI処理もできる
- 複数のプログラムを同時実行
注意点
🟡 少し複雑
- Linuxの知識があると有利
- 設定項目が多い
- SDカードの管理が必要
🟡 消費電力が大きい
- 常時600mA程度必要
- バッテリー駆動には向かない
こんなプロジェクトにピッタリ
- スマートホーム制御システム
- スマホから家電をコントロール
- 音声認識で操作
- カメラで防犯監視
- 気象観測ステーション
- 複数のセンサーでデータ収集
- グラフ表示やWebで公開
- 過去データの分析
- レトロゲーム機
- 昔のゲームをプレイ
- コントローラーを接続
- 家族で楽しめる
ESP32:Wi-Fi内蔵の万能選手
良いところ
🟢 無線通信が標準装備
// Wi-Fiに接続してWebサーバー起動
#include <WiFi.h>
#include <WebServer.h>
const char* ssid = "your_wifi_name";
const char* password = "your_password";
WebServer server(80);
void setup() {
WiFi.begin(ssid, password);
server.on("/", []() {
server.send(200, "text/html",
"<h1>ESP32 Web Server</h1>"
"<button onclick='turnLEDOn()'>LED ON</button>");
});
server.begin();
}
void loop() {
server.handleClient();
}
🟢 高性能なのに安い
- デュアルコアCPU搭載
- Bluetoothも使える
- 1,000円程度と超リーズナブル
🟢 省電力設計
- バッテリー駆動に最適
- スリープモードで超低消費電力
- IoTデバイスに理想的
注意点
🟡 情報がやや少ない
- Arduinoに比べると日本語情報が限定的
- 新しい技術なので、まだ発展途上
🟡 配線が細かい
- ピンが小さくて配線が大変
- ブレッドボードでは使いにくい場合がある
こんなプロジェクトにピッタリ
- スマホ連携温湿度計
- スマホアプリで数値確認
- 異常時はプッシュ通知
- クラウドにデータ保存
- IoT植物監視システム
- 土壌湿度をリアルタイム監視
- 外出先からも状態確認
- 自動で水やり通知
- Bluetooth音楽プレーヤー
- スマホの音楽を無線再生
- 操作ボタンで再生制御
- バッテリー駆動で持ち運び可能
用途別おすすめガイド
🎯 目的別選択チャート
「とにかく簡単に始めたい」
→ Arduino Uno
- 学習リソースが豊富
- 失敗しても安心
- 電子工作の基礎が身につく
「本格的なプログラミングを学びたい」
→ Raspberry Pi
- Python、Scratch等の学習に最適
- 普通のPCとしても使える
- AIや機械学習も体験できる
「スマホと連携したい」
→ ESP32
- Wi-Fi/Bluetooth内蔵
- スマホアプリとの連携が簡単
- IoTプロジェクトに最適
「電池で動くものを作りたい」
→ ESP32 または Arduino
- 両方とも省電力設計
- Raspberry Piは消費電力が大きい
- 特にESP32はスリープ機能が優秀
「予算を抑えたい」
→ ESP32
- 1,000円程度で高機能
- Wi-Fi内蔵でコスパ抜群
- 追加購入の必要性が少ない
💰 コスト比較(スターターキット想定)
Arduino スターターキット
- Arduino Uno: 3,000円
- ブレッドボード: 500円
- ジャンパーワイヤー: 500円
- 抵抗、LED等: 1,000円
- センサーキット: 3,000円
- 合計: 約8,000円
Raspberry Pi スターターキット
- Raspberry Pi 4: 8,000円
- microSDカード: 2,000円
- 電源アダプター: 2,000円
- ケース: 1,500円
- カメラモジュール: 3,000円
- 合計: 約16,500円
ESP32 スターターキット
- ESP32開発ボード: 1,000円
- ブレッドボード: 500円
- ジャンパーワイヤー: 500円
- センサーキット: 2,000円
- 合計: 約4,000円
実際のプロジェクト事例
初心者向けプロジェクト
Arduino:「スマート照明システム」
// 人感センサーでLEDを自動点灯
int pirPin = 2; // 人感センサー
int ledPin = 13; // LED
void setup() {
pinMode(pirPin, INPUT);
pinMode(ledPin, OUTPUT);
}
void loop() {
if (digitalRead(pirPin) == HIGH) {
digitalWrite(ledPin, HIGH); // 人を検知したらLED点灯
delay(5000); // 5秒間点灯
} else {
digitalWrite(ledPin, LOW); // LEDを消灯
}
}
使用部品:
- Arduino Uno
- 人感センサー(PIR)
- LED
- 抵抗
学習ポイント:
- デジタル入出力の基本
- センサーの使い方
- 条件分岐の実装
Raspberry Pi:「ペット見守りカメラ」
# 動きを検知して写真撮影
import cv2
import datetime
import smtplib
# カメラ初期化
cap = cv2.VideoCapture(0)
# 背景画像取得
_, background = cap.read()
while True:
_, frame = cap.read()
# 背景差分で動き検知
diff = cv2.absdiff(background, frame)
motion = cv2.countNonZero(cv2.cvtColor(diff, cv2.COLOR_BGR2GRAY))
if motion > 1000: # 動きを検知
filename = f"pet_{datetime.datetime.now()}.jpg"
cv2.imwrite(filename, frame)
send_notification(filename) # メール通知
cv2.waitKey(1)
必要なもの:
- Raspberry Pi 4
- Webカメラまたはカメラモジュール
- microSDカード
学習ポイント:
- Python プログラミング
- 画像処理の基礎
- ネットワーク通信
ESP32:「スマート植物センサー」
// 土壌湿度をスマホに送信
#include <WiFi.h>
#include <HTTPClient.h>
const char* ssid = "your_wifi";
const char* password = "your_password";
void setup() {
WiFi.begin(ssid, password);
while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) {
delay(1000);
}
}
void loop() {
int soilMoisture = analogRead(A0); // 土壌湿度読み取り
// クラウドにデータ送信
HTTPClient http;
http.begin("https://api.thingspeak.com/update");
http.addHeader("Content-Type", "application/x-www-form-urlencoded");
String postData = "api_key=YOUR_API_KEY&field1=" + String(soilMoisture);
http.POST(postData);
delay(300000); // 5分待機
}
必要なもの:
- ESP32開発ボード
- 土壌湿度センサー
- ジャンパーワイヤー
学習ポイント:
- Wi-Fi通信
- クラウドサービス連携
- IoTの基本概念
中級者向けプロジェクト
「スマートホーム統合システム」
各ボードの強みを組み合わせた本格的なシステム:
Arduino担当:
- 各部屋の温度・湿度・照度センサー
- モーター制御(カーテン、換気扇)
- 緊急時の安全装置
ESP32担当:
- 無線センサーノード
- スマホアプリとの通信
- 電池駆動の移動可能センサー
Raspberry Pi担当:
- 中央制御システム
- データベース管理
- Webインターフェース
- AI による自動制御
よくある質問
Q1: プログラミング経験がないけど大丈夫?
A: 大丈夫です!特にArduinoは初心者向けに設計されています。
おすすめの学習順序:
- Arduino でLEDの点滅から始める
- センサーを使った簡単なプロジェクト
- 複雑な制御に挑戦
- 他のボードにも挑戦
Q2: どのプログラミング言語を覚えればいい?
Arduino・ESP32: C/C++(簡易版) Raspberry Pi: Python、Scratch
初心者におすすめ:
- Arduino のC++(とても簡単)
- Python(読みやすい)
Q3: 部品はどこで買えばいい?
おすすめ購入先:
- Amazon: 品揃え豊富、配送速い
- 秋葉原: 実物を見て購入可能
- スイッチサイエンス: 日本語マニュアル充実
- マルツ: 技術サポート充実
初心者向けキット:
- Arduino スターターキット
- Raspberry Pi デスクトップキット
- ESP32 学習キット
Q4: 失敗したらどうしよう?
安心してください!
- これらのボードは壊れにくく設計されています
- 間違った配線をしても、多くの場合は問題ありません
- コミュニティが活発で、質問すれば助けてもらえます
失敗を避けるコツ:
- 最初は付属のサンプルから始める
- 配線を写真に撮って記録する
- 一度に複雑なことをしない
- エラーメッセージを読む
Q5: 将来性はどうなの?
すべて将来性抜群:
- Arduino: 教育分野で標準的存在
- Raspberry Pi: 小型PC市場で独占的地位
- ESP32: IoT分野で急成長中
スキルの応用先:
- ロボット開発
- IoTエンジニア
- 組み込みシステム開発
- 起業・製品開発
購入ガイド
最初に買うべきおすすめセット
超初心者向け:Arduino スターターキット
Amazon「Arduino Uno スーパースターターキット」

- 内容:Arduino Uno、センサー類、部品、日本語マニュアル
- おすすめ理由:すぐに始められて、豊富なプロジェクト例
プログラミング学習重視:Raspberry Pi
「Raspberry Pi 5 スターターキット」

- 内容:Pi 4、キーボード、マウス、ケーブル類
- おすすめ理由:普通のPCとしても使える
IoT・無線通信重視:ESP32
「ベーシックスターターキット」
- 内容:ESP32、各種センサー、ブレッドボード
- おすすめ理由:コスパ最高、Wi-Fi内蔵
段階的ステップアップ案
Step 1: 基礎を固める(1-3ヶ月)
- Arduino で基本的な電子工作
- LED、ボタン、センサーの使い方
- プログラミングの基礎
Step 2: 応用に挑戦(3-6ヶ月)
- ESP32 でIoTプロジェクト
- スマホアプリとの連携
- クラウドサービス利用
Step 3: 本格的開発(6ヶ月-)
- Raspberry Pi で複雑なシステム
- 複数ボードの連携
- オリジナル製品開発
まとめ:あなたにピッタリの選択は?
迷ったらこれ!用途別最終おすすめ
🔰 電子工作を始めたい初心者 → Arduino Uno 理由:情報豊富、失敗しにくい、基礎が身につく
💻 プログラミングを本格的に学びたい → Raspberry Pi 4 理由:本格的PC、AI学習可能、将来性高い
📱 スマホと連携したい現代派 → ESP32 理由:Wi-Fi内蔵、コスパ抜群、IoT最適
🔋 電池で動くものを作りたい → ESP32 理由:省電力、スリープ機能、無線通信
💰 予算を抑えたい → ESP32 理由:1,000円台、高機能、追加購入不要
最後に:失敗を恐れずチャレンジしよう!
電子工作やプログラミングは、実際に手を動かしてこそ身につきます。どのボードを選んでも、きっと楽しい発見と学びが待っています。
最初は小さなプロジェクトから始めて、徐々にステップアップしていけば、気がつくと素晴らしい作品を作れるようになっているはずです。
今日から始めてみませんか?
あなたの創造力と、これらの素晴らしいボードがあれば、きっと想像以上のものが作れるはずです!
関連リンク
学習におすすめの書籍
- 「Arduinoをはじめよう」
- 「みんなのRaspberry Pi入門」
- 「ESP32&Arduino 電子工作 プログラミング入門」
この記事があなたの電子工作ライフのスタートに役立てば幸いです。質問や感想があれば、ぜひコメントでお聞かせください!